2020.6.23 火曜日

【文献レビュー】犬に対するCBDの炎症性サイトカイン産生抑制による疼痛軽減

 犬に対するCBDの炎症性サイトカイン産生抑制による疼痛軽減が報告されましたのでご紹介します。この論文では、CBDを関節炎の犬に投与し、用量依存的に疼痛を有意に減少させ、可動性を増加させたこと、さらにはマウスモデルでLPS投与後のIL-6産生抑制したことが示されています。
 このように疼痛病態に対して、CBD(0.5ー1.2㎎/kg/dayの4週間使用)によって臨床的に効果が得られたというエビデンスは、獣医療業界において画期的です。【茂木】

A randomized, double-blind, placebo-controlled study of daily cannabidiol for the treatment of canine osteoarthritis pain
PAIN: April 24, 2020 – DOI: 10.1097/j.pain.0000000000001896

 過去20年間、肥満率の増加と人口の高齢化により、米国の変形性関節症の肯定的な診断は3倍となっている。関節炎は犬においてもよく見られる病態で、アメリカンケネルクラブによると、米国では5匹に1匹の犬が罹患していると言われている。

ハイライト

方法

 本論文では、無処理およびリポソームマイクロカプセル化されたCBD(リポソームCBD)を、変形性関節症の自然発症イヌモデルに4週間の無作為化プラセボ対照二重盲検試験投与を実施し、治療上の可能性が検討された。4群の内訳はplacebo, 20 mg/day (0.5 mg/kg) 非リポソーム(naked) CBD, 50 mg/day (1.2 mg/kg) naked CBD, および 20 mg/day リポソーム CBD。
4週間の服用後、飼い主と獣医師は、ランニングや歩行に関連する変化など、動物の痛みのレベルの変化を観察したかどうか、イヌの状態について評価した。イヌの血球数ならびに肝臓および腎臓機能の血液指標もまた、4週間の治療の前後に評価された。

結果

CBDは、用量依存的に疼痛を有意に減少させ、可動性を増加させた。リポソームCBD(20 mg /day)は、臨床徴候の改善においてnaked CBD(50 mg /day)と同じくらい効果的であった。ヘマトクリット、肝臓代謝プロファイル、および血液生化学は、4週間の分析期間中、CBD投与による重大な副作用を示さなかった。
CBDの10匹の犬のうち9匹は、CBD治療が停止してから更に2週間後まで効果を示した。従ってこの研究の条件下では、治療は安全であると判断された。

In vitroおよびマウスモデルでは、CBDは炎症誘発性サイトカインIL-6およびTNF-αの産生を大幅に抑制し、一方で抗炎症性IL-10のレベルを上昇させることが確認された。

考察

これまでにもCBD内服および局所注射の2経路ともに初期段階の炎症が抑制されることがラットの実験で認められており(1)、サイトカインの産生調節によってOAの予後が改善される可能性が示唆されている。

(1)Philpott HT, OʼBrien M, McDougall JJ. Attenuation of early phase inflammation by cannabidiol prevents pain and nerve damage in rat osteoarthritis. Pain. 2017;158(12):2442‐2451. doi:10.1097/j.pain.0000000000001052
概要:変形性関節症(OA)は、関節変性症、間欠性炎症、末梢神経障害などの多因子性関節疾患です。この研究では、CBDがOAで用量依存的に侵害刺激による神経興奮閾値を高め、神経保護作用によって関節神経障害の発症を防ぐことができる事、および関節包へのCBD注射による炎症の抑制がOAの痛みを防ぐこと示されています。

茂木コメント

疼痛病態の臨床治療に関する第2報として、0.5から1.2㎎/kg/dayの4週間使用によって効果が得られたというエビデンスは、獣医療業界において画期的です。またその作用機序として侵害刺激への神経反応性の低下と炎症性サイトカインの産生抑制が認められており、関節保護効果が実証されたと言えます。参考文献(1)では局所注射、参考文献(2)では経皮ジェルの塗布がラットの誘発性病態である関節包の腫脹を緩和したとあり、CBD局所的使用の炎症緩和についての貴重なエビデンスとなっています。

(2)Hammell, D. C., Zhang, L. P., Ma, F., Abshire, S. M., McIlwrath, S. L., Stinchcomb, A. L., & Westlund, K. N. (2016). Transdermal cannabidiol reduces inflammation and pain-related behaviours in a rat model of arthritis. European journal of pain, 20(6), 936–948.
https://doi.org/10.1002/ejp.818

概要:経皮CBDジェルは、関節の腫れ、手足の姿勢のスコアを、自発的な痛み、免疫細胞の浸潤、および滑膜の肥厚を用量依存的に評価することで大幅に低減しました。
ジェルの溶剤はCarbopol® 980 polymere。塗布後約5時間後の血中濃度が測定され、用量依存的に吸収が行われていることが認められています。カーボポール®は水溶性ビニルポリマーで、さまざまな産業で乳化剤、安定剤、沈殿防止剤、増粘剤、ゲル化剤として使用されています。