2020.9.28 月曜日

茂木千恵先生に聞く 「ちょっとだけ専門的なアニマルCBDのお話」その1 動物用もひと用も、CBDは同じもの?

多くの可能性が期待されているCBD。しかし、まだその効果やメカニズムについては、分からないことが多い。動物たちにCBDを安全で効果的に使用するにはどうしたらいいのか?そのためには、少し難しいかもしれないが、専門的な知識も身に着けておいた方がいいだろう。

そんなことで、ヤマザキ動物看護大学動物看護学部准教授の茂木千恵先生に、ちょっとだけ専門的なアニマルCBDについてのお話を聞いてみた。

動物用CBDは薬なのか

長吉(以下N):動物用CBDとは、どのようなものなのですか

茂木(以下M):CBDにはひと用も動物用もありません。中身は同じCBDです。しかし動物へは医薬品として使用することがまだ認められていません。例えば、効果や効能が見込まれますというような能書きをつけて、不特定多数の飼い主さんと共に動物に使用することは、まだ認められていません。そのため今後、「動物用CBD」という表現は、かなりグレーになってくると思われます。

N:現在CBDは、日本では食品などとして扱われていますが、今後、医薬品として認可されたとしたら、状況が変わってくる可能性があるということですね。

M:そうです。海外の例をみると、イギリスではCBDを医薬品として扱うべきであり、CBDを含む製品にはしっかりとした調査が必要であるという報告も出てきています。これは、CBDが単なるサプリメントではなく、効果効能を持ちうるということを示しているからでしょう。

現在イギリスでは、動物用として認可されているCBDはありません。ひと用として売られているものを個々の獣医が自分の裁量で責任をもって使うという状況です。そのため、飼い主さんにCBDを渡す際に、「万が一の副作用が発生するかもしれませんが大丈夫ですか?」という承諾書が必要になってくるレベルです。しかし今後は、販売認証が必要になってくると予想されます。

N:世界中どこでもそのような状況なのでしょうか?

M:恐らくそうですね。アメリカはもう少し許容されていると思いますが、FDA(注1)が厳しくみていますから、実際に認可される動きはなく、規制方向に進んでいます。

N:動物用もひと用と同様に、FDAで管理されているのですか?

M:そうです。FDAで認可されれば、人間薬と同じ成分を配合したCBD製剤を少ない容量にしたものを、動物薬として販売します。一般的には、人間薬が販売されてから5~10年経過すると動物薬が認可されます。

N:通常、アメリカで承認された動物薬は、日本ではどれくらいの期間を経て認可されるのでしょうか?

M:これも一般論ですが、アメリカで承認されてから、更に3~4年かかります。入ってこないものもあります。でも日本の獣医さんは、その情報をちゃんと知っていて、わざわざアメリカに買付けに行く先生もいらっしゃいます。

獣医法では、獣医さんが個人で使用する分には、何を使っても構いません。つまり、自己責任なのです。

受容体の分布で、ひとと犬の効果が異なる

N:CBDは動物にはどのような使い方をするのですか?

M:CBDを動物に投与すると、ひとと同様の作用が起きると考えられています。同じ脊椎動物ですし、脳神経や免疫機構もほぼ同じで、ひとも動物もからだを維持するところにくまなくCBDが作用するエンドカンナビノイドシステムがあります

しかし、受容体のある場所がひとと犬など動物種によって多少異なることから、効き方が多少異なることが分かっています。

例えば、脳内のCB1受容体の分布は、ひと、犬、げっ歯類にはそれぞれ違いがあることが報告されています。

脳の前頭前野という情報を処理する部分は、私たち霊長類が発達している脳の部位です。ひとの前頭前野にはCB1が多く分布しているのに対して、犬のそれにはあまりありません。そのことで、もしかしたらTHCのハイな作用は、犬にはあまり起きないのかもしれません。

一方、運動を司る小脳に分布するCB1の数は、ひとは少ないですが犬には多く分布しています。

犬に対するマリファナ系の中毒でよく報告されるのは、アタキシアというけいれんです。これは、犬の小脳に多くあるCB1受容体にTHCが効いてしまい、ひとが感じるよりもさらに進んだ運動制御不能の感覚に犬は陥るからだと考えられています。

記憶を司る海馬には、ひとも犬も同じくらいのCB1受容体があります。このためCBDは、ひとのPTSDに効果的なのですが、犬にも同様の効果があると推測できます。

研究が進めば、皮膚などの他の部位も、ひとや動物の違いによって効き方が異なることが明らかになってくると思います。

N:受容体の数によって反応が違うのですね。大変興味深いお話でした。ありがとうございました。

注1 FDA(食品医薬品局):アメリカ合衆国の行政機関。食品や医薬品、化粧品、医療機器、動物薬、たばこ、玩具など、消費者が通常の生活を行うに当たって接する機会のある製品について、その許可や違反品の取締りなどを行う。

その2につづく・・・