2024.9.3 火曜日
エンドカンナビノイドシステムとCBDの最新レビュー
Veterinary Research Communicationsに発表されたレビュー論文「主要な獣医学的関心種におけるエンドカンナビノイドシステムと植物性カンナビノイド:比較レビュー」【1】についてご紹介します。
このレビューは、獣医学におけるエンドカンナビノイドシステム(ECS)と植物性カンナビノイド(pCBs)の最新の研究成果をまとめたものであり、私たちが臨床現場でどのようにこれらを応用できるかを考える上で非常に有用な情報が含まれています。
エンドカンナビノイドシステム(ECS)とは?
まず、エンドカンナビノイドシステム(ECS)は、神経組織および非神経組織に広く存在するシグナルネットワークであり、ホメオスタシスの維持に関与しています。ECSは、主にカンナビノイド受容体(CB1、CB2)、内因性カンナビノイド(eCBs)、およびそれらに関連する酵素で構成されています。これらの要素が連携して、鎮痛、抗炎症、神経保護などの生理学的効果を発揮します。
植物性カンナビノイド(pCBs)の作用と可能性
ECSとの関連で、植物性カンナビノイド(pCBs)、特にカンナビジオール(CBD)とΔ9-テトラヒドロカンナビノール(THC)などが、動物の健康管理においてどのように役立つかが近年注目されています。pCBsはECSの受容体に結合し、eCBsと類似した効果を発揮しますが、その作用は動物種や投与方法によって異なることがわかっています。
このレビューでは、主に犬、猫、馬などの主要な獣医学的関心種におけるpCBsの薬物動態、有効性、忍容性が詳述されています。特に、CBDの経口投与による吸収率の低さや、個体間での薬物動態の変動が強調されています。
Mogi et al., 2019の研究内容
私たちが以前発表したMogiとFukuyama(2019)の研究も、このレビューの中で取り上げられています。この研究では、3匹のてんかんが疑われる犬に対してCBDを投与し、その効果を評価しました。結果は個体ごとに異なり、一部の犬では発作の頻度や強度の改善が見られましたが、他の犬では顕著な効果が得られませんでした。これにより、CBDがてんかん管理に有効である可能性は示唆されましたが、すべてのケースで成功するわけではないことが明らかになりました。
Mogi et al., 2022の研究内容
また、Mogi et al., 2022の研究では、CBDが犬のアトピー性皮膚炎に対して与える影響を調査しました。この研究は8匹の犬を対象に行われ、CBDが痒みの軽減に効果があることが確認されましたが、皮膚の病変そのものの重症度には改善が見られませんでした。この結果から、CBDがアトピー性皮膚炎の補助療法として有望である一方で、単独での使用には限界があることが示唆されています。
臨床応用への提言
これらの研究成果を踏まえ、私たち臨床獣医師がECSおよびCBDをどのように実際の診療に取り入れるかについて考えてみましょう。まず、CBDの導入に際しては、個々の動物の反応性や疾患の種類を慎重に評価することが重要です。CBDが効果を発揮する可能性がある領域は、てんかん、慢性痛、アトピー性皮膚炎など多岐にわたりますが、個々の症例に応じた適切な用量調整が必要です。
また、CBDを含む製品を使用する際には、その品質や成分表を確認し、信頼できる製品を選ぶことが大切です。特にTHCの含有量には注意が必要で、決して人用を用いてはならず、動物に有害な影響を与えないよう精査が求められます。
最後に
エンドカンナビノイドシステムとCBDに関する知見は日々進化しています。今後も最新の研究成果を取り入れながら、皆様と共に動物の健康管理に貢献できるよう努めてまいります。引き続き、アニマルCBD研究会をよろしくお願いいたします。
引用文献
【1】 Di Salvo, Alessandra, et al. “Endocannabinoid system and phytocannabinoids in the main species of veterinary interest: a comparative review.” Veterinary Research Communications (2024): 1-27. http://dx.doi.org/10.1007/s11259-024-10509-7
【2】 Mogi C, Fukuyama T. “Cannabidiol as a potential anti-epileptic dietary supplement in dogs with suspected epilepsy: three case reports.” Pet Behav Sci (2019): 11–16. https://www.uco.es/ucopress/ojs/index.php/pet/article/view/11800
【3】 Mogi, Chie, et al. “Effects of cannabidiol without delta-9-tetrahydrocannabinol on canine atopic dermatitis: a retrospective assessment of 8 cases.” The Canadian Veterinary Journal (2022): 63. 4. 423. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8922375/